30年前のポート研磨術 再録!
カキモトレーシング(大阪)

当時の最高峰と言われた
柿本改が削り出す
ヘッドのIN&EXポート
その細部に迫るっ!!          1989年4月号&1990年12月号 

 

少し前のことになりますが、
RISINGの伊藤さんと電話していたときに、
「新たしいリューター買ったんですよ!」
という話があった。
以前から、何度かリューターの話をしていたのだが、
前のリューターが壊れて、新しいものを入手したとのこと。

で、ふと思い出した。

昔々の話になるのだが、大阪のカキモトレーシングの
柿本さんに、原稿依頼したことがあったのだ。
先日、和歌山の河西モータースさんにお邪魔したときも、
柿本さんの話になった(というか、そっちに振ったのだが)。

そのときに、和田さんが言ってたことが、
非常に印象的だった。

「柿本さんの作るL型と、和田さんのL型の違いは?」
という問いかけに。

「ウチのが普通のL型なら、向こうのはチューニングされたL型」
「キャブで言えば、ソレックスの44φと50φ」

びっくりした。
和田さんが、そんなふうに思っていたとは……。

予想を大きくうわまわっていたのだ。
そして、そんなことを考えているうちに、
伊藤さんのリューター話になったときに、

「リューターは、エアじゃダメなんです。電気です、電気」

「アウトストラーダの佐々木さんも、電気です」

……んっ? アウトストラーダの佐々木さんといえば、
その昔は、カキモトレーシングにも在籍していたはず。


「ええ、そうですね。柿本さんが使っていたのは知ってました。
いまも、電動式を使ってますよ〜」

というところで、昔々の記事をあさってみました。

そして、発見したのが、柿本さんの自筆原稿でした。

当然のことながら、藤本の原稿ではないので、
テキストファイルは残っていません。
ま、ページを拡大してもらえれば、文字は読めるんですが、
できれば、テキストファイルに起こせないか?

以前なら、Acrobat Proを使って、OCR機能で、
テキスト起こしができたのですが、
どうしてだか、アプリを入れ替えてからはうまく作動せず、
無料のフリーアプリでなんとかならないか?
と試行錯誤しているうちに、いいものを発見。

Googleドライブでした。

ここに画像ファイルをアップして、
そいつをGoogleドキュメントで開く……とすると、
びっくりするほど、正確なOCR作業ができるじゃありませんか。

その昔、『1997 圧巻! CB0→400m』という本を作るときに、
昔の記事をテキストファイル化するために、20数万円のOCRソフトを
購入しました……が、結果は散々。思いっきりソフトを投げつけた覚えがあります。

そんな時代から20年を経た現在、無料で、ここまで精緻なOCRができるとは。

以下の原稿は、上記のようにして、30年ほど前のCARBOY誌から起こしました(笑)

 

◇     ◇     ◇

  ◇     ◇     ◇


まず、ヘッドチューニングというと、
すぐにポート研磨を想像してしまうが、
ちよっと待ってほしい。

ボクがいつも思うことだが、ヘッドチューンというのは、
宇宙の心理のようなもので、考えれば考えるほどきりがなく、
そして面白く、またわからなくなり、考えれば考えるほど
興味が湧いてくる楽しいものだ、とボクは思っている。
宇宙に新しい発見、新しい考えがあるように、
ポート加工にもまったく同じことがあてはまるような気がする。
固定観念というものはこのさい捨て、自由で楽な気持ちで考えてほしい。
そうしたらポートというものに対して実に楽しい時間をもてると思う。

チューニング大好きなキミたちは、すでに一度はポート加工を
行なったひとも多くいるはずだし、エンジンチューンを
始めるきっかけをつくるのも、このポート加工があるからだと思う。

何を隠そう、このボク自身も仕事のうちでポート加工が一番好きで、
最も自信をもっていることのひとつでもあるんだ。

ボクの経験だが、この手加工がチューニングの本質で、腕さえあれば、
一般市販部品を使ったカテゴリーのレースなら、
絶対に負けることはない」と思っている。

あの巨額な予算と膨大な物量をもつ自動車メーカーの
ワークスエンジンにも負けないエンジンを
完成させることがキたちにも可能であり、
そのことはボク自身の経験からもいえることで保証する。

前置きが長くなったが、吸排気系のチューンである
ポートとその周辺について、ボクの考えてることや、
現在、行なっているチューンを説明しよう。

吸排気系のチューンとは、吸排気効率、
熱効率の向上、といえると思う。
細かくは、吸排気効率と充填効率のふたつに分けられる。

吸入効率を上げるということは、よリ多くの空気(混合ガス)を
エンジン内に吸入させるということだ。
充填効率を上げる」ということは、
気温、気圧などによって空気密度が異なり、
空気重量(酸素量が変化するため、
冷却性の向上等を図るということだ。
このことを頭にいれて考えてみよう。

吸入効率のよさは吸入通路がスムーズになっていて、
吸人気量が、多く流れるようなかたちでなくてはならないし、
要求最高回転数に対しても十分な断面積を
もっていなければエンジンは回ってくれない。
充填効率をNAエンジン、ターボエンジン(同じと考えてもいいのだが)の
ふたつに分けて考えてみよう。

NAエンジンでは、ポート部分による熱溜まり(あとで問題になる
ポート研磨によるポートの薄壁化)による密度の変化、
またエアクリーナー等によるチョーキングが、充填効率を変化させる。
ターボエンジンでは主にチャージングによる強烈な温度上昇、
またタービン効率の変化は、吸入空気歴度に直接影響し、
空気密度が大きく変化することは知ってるよね。
吸入空気は冷やせば空気密度が増し、充填効率に比例して上がるんだ。

吸入空気は、ビストン(B)が下がり比力(P2)が
発生することで(P1)との圧力差により吸入が行なわれる。
また回転が上がるにつれてピストンスピードが速くなると、
(P1-P2)で負圧が大きくなり、流速も増すと流入抵抗は増加する。
ということは、流れの抵抗が空気速度の二乗に比例して、
ますます吸入空気が入りにくくなるんだ。
吸入空気はエンジンにより加熱されて温度が上昇し、
シリンダー内の温度T2)になり、空気密度が低下する。

以上のように、空気密度の低下を補うためには、
ポート断面積(A)を大きくし、より多くの空気を流すように
しなければならない。流れやすさ(L)をよくするためには、
よリスムーズなポートにして空気をより冷えた状態にし、
(T2)を下げることなどが必要であり、
ポートの加工が必要な理由はここにある以上(図1参照)、
吸排気系の最小断面積部分は一般的にバルブ近辺、スロート付近であり、
吸排ポートの量は最小面積部分が主に中心的に支配している。

これは証明されているので、ビッグバルブの採用やスロー影響し、
パワーアップが一番期待できる一部分でもあるんだ。
また一般市販エンジンは2バルブ、4バルブにかかわらず
絶対的にバルブ径が不足しており、ボア径燃焼室等の限界まで
ビッグバルブ化しても、なんら問題は起きないとボクは考えている。
ビッグバルブにすることで、当然ながらシートリングは打ち替えるわけだが、
よく見かけることで、インレットシートリングとエキゾーストシートリングが
オーバーラップしていることがよくあるが、エキゾースト側のシートリングに
ひずみが起こったり、沈んだり、吸人空気の温度が下がらなかったり、
耐久性が悪くなるだけでなくパワーアップは期待できない。

すこしてもいいから間隔をとるようにすることは大事なことなんだ。
さて、これから本題のポート加工にはいるわけだけど、
なんといっても、道具となんとかは使いよう、
ということで、ポート加工に必要で大切なことは、
情熱と知識、技術と経験、それに道具なんだ。
道具が悪ければどんな名人でも何もできない。

そこで、エアリューターは使うな!

こんなのは子供だまし、遊び道具のようなもので、
プロのボクは使わない。リューターは、電動式を使うべし。
これが一番いい。安くて使いやすいのは、
日立製のLDU6というやつだ。ボクはこれを勧める。
これを使えば大幅なポート加工が驚くほど能率的に行なえる。

これが大切なんだ。ポート加工は実にたくさん削る
必要があるんだ。L6のポートなんかになったら
大きな洗面器一杯分の切り粉が出るくらいで、
能率が悪かったら加工どころじゃないものね。

ただ、欠点は非常に重たいことで、この重いリューターを、
鉛筆で字を書くように指先で自由に使えるようになる必要がある。
それができるようになったら、欠点であった重さが
実に具合よくなり、手に力がはいらずスムーズな
ポート加工を精密に行なえるようになるはずだ。

初めはいきなリリューターを使わずに
サンダー等で練習して手に力をつけてほしい。

最初からいきなりやると非常に危険だからね。
かなり前になるけど、このボクもちょっとした
気のゆるみから前歯を2本折ってしまったことがあった。
たしか日曜日で、歯医者は休みだし、
ずいぶん困ったことがあった。
おまけに前歯2本で乱万円、痛かったよ。

超硬ロータリーバーは、ボクの場合、
大小とり混ぜて30本以上使っているが、
普通は一本か二本あれば十分に加工できると思う。

ロータリーバーでボクが一番気にいってるやつは、
あまり有名なメーカーではないけれど、お勧めなのは
オーナーロイ社の品番IDBというやつ。
これ一本あれば、完壁なポートができるんだ。

それでは、ポート形状をボクなリの考えで説明しよう。
まず、みんなに考えてもらいたい。
ボクたちは、いまあるプロダクションモデルを
チューンする立場であり、エンジンデザイナーではないということを。
そこで、理屈、理論をいっても始まらない。
大切なことは基本エンジンの欠点を見抜く目にあると思う。
よくある欠点の例をあげよう、

例1のようにポートセンターに対して
前後左右に大きくずれている、
また、ポート入り口が大きく上下にずれている。
このふたつを精密に調整すれば、ポートチューンの
半分は終わったようなものなんだ。
ポート形状は真円が一番効率的だ、
ということはわかっているけど、
エキゾーストポートは一般的に四角形が多い。
これは実に効率の悪い形状をしている。

そこで、この悪い形状の四角を、
効率のよい丸型にすこしでも近づける必要がある。
それではどういった形にすればいいのだろうか。

答えは、排気ガス特性を考えてもらえると簡単だ。
シリンダー内で起こる爆発は主に上方向に広がる特性をもち、
ポート内でのガスの動きは、ポート上面を通って外に向かおうとする。

このことを考えてもらえればエキゾーストポートの
形状が見えてくるよね。そう、ポートの上面を丸型に
すれば円形に近い流出量を確保できるんだ。

柿本レーシングの柿本改48.6φBポートタコ足は、
この原理により大きなパワーアップを可能にしたんだ。

ポート加工のなかで、スロート部は断面積の
変化が最も大きくなる部分で、この部分の研磨は
最も気を使う部分だ。

ポートはスムーズな形状が一番いい。
ということは何度もいってることだけど、
スロート部分バルブガイド、ガイドボス、
バルブステム等の部品が集中している部分でもあり、
各部品のもつ体積がポートの断面積を小さくしている。

ここの部分は、多少ポート形状が変形しても
断面積を広げる方向で削っていく。
ここを削るということは、高回転まで回す
加工法のひとつである。

ただし、あくまでも体積のふえたぶんを補う
という意味で削るんだよ。ここで断面積の
大きな変化は削った意味がなくなるからね。

また、ガイドボス、ガイド等を削ってスムーズなポートになっていても
忘れないでほしい。そこには、最後にバルブステムが入り、
断面積を小さくしているということを。
小さなことだが、そこまで大事にするということが、
ドライバビリティやパワーにつながるということなんだ。

次に、NA、ターボのポートの形状の差だが、
基本はNAのポートになる。
キャブ、インジェクションとによって
ポートが変わるように思われがちだが、
インマニからスムーズな形状をとるというのは
すべて共通なことで、ターボだからポートは適当でいい、
なんていうことはまったくない。

逆にターボのほうが、より大きな断面積を
必要とするくらいだから、そこのところを注意してほしい。
またハートの形は理想的なサイズには絶対に削れない。
わかりきっていることだけど、なるべく理想に
近づけていきたい。そのために基本の削り方を
守ってやることが大切なんだ。

ヘッド単体で考えず、インマニがあることも考えたい。
スムーズなポート加工をしてきたつもりでも
インマニを付けるとスムーズでなくなって
しまうことがよくあるのだ。

どのエンジンにもいえることだが、
ポートの形は理想的なサイズには、絶対に削れない。
わかりきっていることだけど、なるべく理想に近づけていきたい。
そのために、基本の削り方を守ってやることが大切なんだ。

まずポートを削りはじめる前に、ポートの入リロに
青ニスまたは白色のフェルトベンを塗り、
インマニガスケットに沿ってケガいていくわけだが、
ボクは出来上がりサイズよリ2mmほど小さくケガく。
これが秘訣だ。削る姿勢としてヘッドを目の高さの
正面の位置までもっていき、リューターを肩に軽く当て、
左手を前、右手を後ろにしてリューター前端を力をいれずに持つ。

このときの秘訣は、小鳥を握ってるような
(力をいれれば死んでしまう、抜けば逃げてしまう)感じだ。
そんな感じで最初から粗削りと思わず、
丁寧にポートの先のほうを予想しながら削るといい。

これはコーナーの先を読みながら出口に目線が
いっていなければうまく抜けられないのと同じで
(本当はドラテク講座のほうが得意なんだけど!)、
先を見ながら削っていくんだ。

ポート加工は、一に根気、二に根気。

すべて根気で、自信をもってていねいにやれば
さっと成功するはずだ。ケガキ線のところまで
すべて削り終わったら、粗いベーパーをかけてほしい。
これはなめらかにするだけでよい。
そして最後に削り残しているあとの2o分をケガきなおし、
もう一度、研磨しよう。

なぜこんなことをするのかというと、初めから
最大径に削ってしまうと、リューターが当たったり、
削りすぎたりしてポートが変形してしまうことが多いからで、
ボクの場合、7/100ほどの精度ならリューター仕上げでも
可能だが、いつもこの方法を実行するから、
成功していると思っている。ぜひ守ってほしい。

最後になるけど、ポートはあまリビカビカに
しないでほしい。これは後々、手直ししたくなっても
やりづらくなってしまうからだ。
また、気づくことがあればあとから手直しすることをお勧めしたい。
(柿本由行)



©八重洲出版 




カキモトレーシング
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柿本330PS L28改3.1Lレプリカ

  柿本 L28改TURBO800PS完全分解
  L型POWERの逆襲!
  柿本さんから教わったこと
  柿本式ポート研磨術



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