柿本さんから教わったこと
カキモトレーシング(大阪)

一度終わ

人間の指先や目、耳には、
思っている以上の感覚が宿っている
そんなことをあらためて知った!

先日、テスタロッサの石川さんに、
指先には1000分台の誤差を判断する能力がある
という件を教えてもらったことを掲載しましたが、
そのことがきっかけで、20年以上前にも、
同じような『人間の能力』に関して教えてもらったことを
思い出しましたので、報告します。

このHPを見てくださっている方には、
もうおなじみのカキモトレーシングの柿本さんです。

あるとき柿本さんから聞かれたことがありました。
「コンロッドというのは、ピストンを水平に
保つ必要があるので、クランクジャーナルと水平に、
ピストンピンをセットすることが使命ですけど、
コレをチェックする方法って、わかる?」というものでした。

コンロッドの平行をチェックする
専用の計器があることは知ってましたが、
柿本さんから、このように聞かれるときというのは、
一般的な回答を期待されてるわけではないということは、
それまでの経験から察していた。

察してはいたが、見当がつかなかった。「

簡単なんですよ。コンロッドの側面にオイルを塗って、
2本のコンロッドを合わせて、お天道さんに透かして見るんです。
そして、裏返して再度チェックすれば、
ピストンピンが水平になってるかどうかが、
一発でわかります。人間の『目』というのは、
よくできてますからね〜(笑)」であった。

聞けば、なるほど、だった。

だけど、どこの誰が、コンロッドをお日様に透かして、
その曲がりをチェックするというんだろう。
そのときはそう思った。

だけど、そのほかのいろんな話を聞いていると、
柿本さんというヒトは、自分でいろんなものを
体得してきたヒトなんだな。
そういうことが理解できるようになってきた。
少しばかり難しい事柄を、他人に説明するときに、
よく言われることがある。

「誰にでもわかる優しい言葉で説明できるヒトは、
本当に理解ができているからだ」と。


しかしながら、そこからもう一歩進んだところに、
柿本さんというヒトはいたようだ。
事象を理解するだけではなく、
自分の内部で展開させていたということなんだろう。

一般的な解釈にとどまらず、その根本原則に
立ち戻って、物事を考え、その結果として、
自分の経験則を築き上げていく。
L型チューン、そしてRBチューンの成り立ちや進化具合が、
他とは異なった地平から成立していった理由のひとつは、
このあたりにあったんじゃないか?と思う。

 

   ◇     ◇     ◇


柿本さんの話を、もうひとつ、つけ加えましょうか。

エンジンを組んでいるときの柿本さんに聞いたことがある。
「使ってるスパナは、STAHWILLE社のものですよね。
いつもSTAHWILLEを使ってるんですか?」と。

素朴な疑問だった。

当時は、Snap-on社製の工具が大流行。
ちょっとこだわりのあるチューニングショップの
ガレージには、Snap-onの工具箱と、
そのなかにメッキで輝くSnap-on工具が
誇らしげに存在していたものだ。

一方STAHWILLEの工具は、梨地で幾分地味。
素人の見た目には、Snap-onのほうが、
高級な工具のように思えたものだ。

「他の作業のときは、別の道具でもいいけど、
タペット調整だけは、STAHWILLEのレンチ
じゃないとダメですね。L型エンジンにとって、
タペット調整というのは、非常に繊細な作業なんです。
STAHWILLEのレンチを使うと、しなりはしないんですが、
微妙な力加減でタペットクリアランスを
セットすることができるんです。
他の工具じゃ、この繊細さは、無理です」
と、あっさりと言われてしまった。

当時は、わからなかった。

しかしながら、その後、L型チューンが
ドンドンと進化&深化していくなかで、
柿本さんの言葉が、非常に重要な『意味』を
持っていたことが次第に理解できてきた。

ボーリング&ホーニング作業で生み出す
ピストンクリアランス、メタルとクランクのクリアランス等、
エンジンを組むときに、様々なクリアランスが
重要なポイントになってくるのだが、
唯一と言っていいほど、チューナーのさじ加減、
工具の使い加減で決定されるのが
タペットクリアランスである。

SOHCのロッカーアーム方式を採用しているL型だけに、
最終的なバルブの突き出し量を『調整』するのは、
タペット調整という作業。

シックネスゲージを使って、2本のオープンエンドスパナで
調整するクリアランスは、そのエンジンが
高回転志向であればあるほど、
重要なセットアップポイントになる。

その作業の意味を考えていたからこそ、
使用する工具に、STAHWILLEレンチを
選択するという結論に達したのだろう。
ちなみに、STAHWILLEのレンチは、
当時の工具のなかでは、そのオープンエンドの薄さは最高水準。
航空機用の工具として開発されているだけに、
薄さや硬度、そして表面処理等、様々な部分で洗練されていた。

 

 

 

 

そのことに影響されたわけではないのだが、
後日、藤本自身も、見栄をはって買ったSnap-onの
レンチは、すべてと言っていいほとスタビレーになりました。

ま、これは、武蔵境にあった工具屋さんで、
スタビレーの航空機用のソケットセットを実見したのがきっかけだった。
アメリカ製の工具とは比較にならないほど薄く作られたソケットを見て、
「ガ〜〜ンッ!」とやられたわけです。

ミリサイズのソケットには、そこまでの精巧さはなかったので、
ソケットレンチはスタビレーにはしませんでしたが、メガネと片目片口は、
全部スタビレーにしました。
それほど作業をするわけではないんですが、中央に凹みがあって、
梨地仕上げのレンチは、やっぱり使いやすいですし……おっと、
いまになって気がついたんですが、
スタビレーのオープンエンド部には、若干ではありますが、
工夫が凝らされています。

ボルトを咥える際に、先端部分の寸法が少し広めになっているんです。
だから、Snap-onのフランクドライブ的なものは必要ないし、
差し込みやすく、奥まで咥えこめば、ボルトの『角部分』がセンター部にきます。
大抵のレンチは『面部分』がセンター部に来るんですが……。
しかしながら、モデルチェンジで、そのタイプはスタビレーのオープンエンドには
なくなってしまいました。いま、そういうタイプのレンチを販売しているのは、
MAC TOOLくらい……かな? それとも、そちらも……。

 

おっとそうそう、以前東名パワードさんで、
SR20DETのポンカム交換の取材をしていたときに、
タイミングプーリーを外すときに、
プーリー中央のボルトを外さなければいけませんが、
そのときにカムを押さえておくことが必要です。
メカニックさんが取り出してきたのが、スタビレーのレンチでした。

「ちょ、ちょっと待ってください、なんで、スタビレーなんですか?」

「いえ、この部分がけっこう狭いんで、スタビレーしか入らないんです。
他の道具が使えないか?と探してみたんですが、クニペックスのプライヤー
くらいしかなくて……」

「でも、ポンカムを安く提供するのに、必要な工具が高価だったら……」

「でも……ないんですよ」

「じゃ、じゃ、こうしませんか? スプロケットの穴に、
なんか棒を差し込んで、ウエスとかで巻いて、
ヘッド上面に傷がつかないように養生して、
セーノッ!で一気に回してみるというのは?」

「エエ? そんなことするんですか?」

「ボク、バイクのエンジンバラすときに、SST買うのがシャクだったので、
なんとか、ウエスや手近にあるものを使って、ごまかしながら
クランクケース割るところまでやったことあるんです。いけますよ(笑)」

結果、そのときの取材は、そのような形で凌ぐことができました。

スタビレーは好きだけど……。

 

 

おっと、話が逸れてしまいました。
上の写真は、久しぶりにお会いした柿本さんでした。
谷田部の頃の話や、FISCOでの思い出等々、
いろんな話をしましたが、そのなかで印象的だったのは、

「柿本さん、当時のL型の加工で、クランクジャーナルの
ラインボーリングやなんかは、梅チューでやってたんですか?」


そう聞いたときに、

「いや、東大阪の方の小さな工場やったな。『やれるか?』と
聞いたら『やれるっ!』っていうんで、それからもずっとそこでやってた」

「へえぇ〜」

でありました。

エンジンにとって必要な要素を洗い出し、
そのための加工方法を考え、
実際にできるところを探し出す。

そういう柿本さんにとっては当たり前だったものが、
他の人間&チューナーにとっては驚異的だった時代が、
あの頃には、たしかにあった……。




カキモトレーシング
〒592-8341 大阪府堺市西区浜寺船尾町東1-111
Tel 072-265-5050


http://www.kakimotoracing.co.jp

 

 



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柿本330PS L28改3.1Lレプリカ

  柿本 L28改TURBO800PS完全分解
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