ブロック偏心が可能にした8A-G仕様

RS YASU(栃木)

CARBOY1997年5月に掲載


レーシングサービスYASUが作り出した
4A-Gの究極発展形!!


1600ccの4A-Gをスタート地点として、ボアアップ版の
4.5A-G→HKS製5A-Gクランクを使ったボアアップ
バージョンの5.5A-G→6A-G→7A-Gと、
ドンドンと排気量を拡大してきた最終形が8A-G
(試験的に8.5A-Gまで製作したというが)。

8A-Gというのは、4A-Gのシリンダーヘッドと
7A-FEシリンダーブロックを組み合わせて、
83φCA18DE改ハイコンプピストンと
7A-FE用85.5oクランクで、総排気量が
1850ccとなるもの。ただし、ほとんどの
エンジンビルダーが、83φピストンを、
7A-FEブロックに入れることができないので、
7A-Gが限界点となっている。

RS YASUが8A-Gの83φを可能にしたのは、
『7A-FEコンロッド改側面鏡面0.5偏芯加工』
という技術である。コンロッドの位置を
オフセットさせ、それに伴い、シリンダーブロックの
ボア位置をもオフセットさせる……このあたりは、
内燃機加工でも特殊な技術を必要とする分野。

これまでも、クランクシャフトのジャーナル偏心や、コ
ンロッドのオフセット加工等を経験してきただけに、
この組み合わせが実現した。

1600ccのエンジンが、1850ccになるということは、
気筒あたりの排気量が1.15倍になるということ。

L型換算すれば、L28が3.1Lになった場合が1.1倍
だから……非常に大きな変化が期待できるという
ことになるのではないだろうか(笑)


※以下、当時のまま掲載させていただきますので※
※価格、仕様等は変更されている可能性が大です)※

いよいよ驚異のドッキングエンジンである
8A-Gが発進し始めた。これまでサーキットで
耐久チェック等のテストを済ませ、本格的な
ストリートデビュー……こいつはナニモノだ??!!




間瀬サーキット等で、耐久チェックを行なってきた
8A-Gのストリートバージョンができた!とはいっても、
まだまだこれからの課題を山積みしてのストリート
デビューなのだが、とにかくこれまでの4A-G史上
最大排気量を持つ仕様は、一体全体どんなもんか? 

興味津々でイグニッションON。組んでから
まだ50kmしか走っていないエンジンだが、
その排気音はとてつもなく迫力満点……ではない。

ンッ?? どうしたんだ。なんだかふんづまり
状態のような、予想とは違った排気音だ。

ま、それはそれとして、とりあえず水温計も
動き始めたことだし、ちょっくらアクセルを
踏み込んでと。オオッ、なんだこりゃ。
5.5A-Gのとき以上にトルクの嵐。

意地悪く4速1000回転から踏んでも、
5速1500回転から踏み込んでも、
なんだ坂、こんな坂とばかりに、
グイグイと加速していく。

なら、普通に踏んでいきましょう。
1速、2速、3速……おっと、5000回転や
6000回転なら踏んでくれてOKと言われてるけど、
どこのギやでもドォーッと加速状態が続く。
一次曲線的な加速とでも言えばいいのだろうか。

ほとんどトルクの谷や落ち込み部分を感じることなく、
どのギヤでも同じように加速していった結果、
スピードメーターはアッという間に上昇していく。

スーパーチャージャーが付いているような
感じとでも言えばいいのだろうか。
んでもって、スーパーチャージャーが
頭打ちになるところあたりからハイカム
効果でギュイーンとノッてくる……なんだ? 
このエンジンは?? 頭のなかで考えていたのは、
「排気量が1850ccになったわけだから、
SR20DEや3S-Gにエンジンスワップした
ような感じか?」だったが、それとも違う。

まだまだチューン度は低いものの、
8A-Gは、やっぱりチューニングエンジンなのだ。
チューン度が低いというのは、最初に感じた
排気音のパンチ力不足と合い通じるものがある。
アイドリング時でもそうなのだが、2000回転、
3000回転時でも、なんだかくぐもっているような
フィーリングを受ける。

帰ってきてエンジンフードを開けてみるとビックリした。

ノーマルのEXマニホールドが付いているのだ。
吸気側は大容量サージタンクなのに、
このアンバランスさは、一体全体ナンなんだ?

「通常の4A-Gチューン用のタコ足じゃ、
まったく詰まってるんですよ。で、一番太い
戸田レーシングさんの42・7φをつけて、
どうにか。でもそれでもいまの仕様でそうですから
足りないですね。それにマフラー部分も、
従来の50φじゃなくて60φは欲しいですよ。
テスト時は直管だったんで、なんとかいけてたんですけど……」

山崎さんが説明してくれた。

で、どうしてノーマルか?というと、
まずノーマルでどういう状態なのか?
をチェックしてみたかったのだという。
そう言われれば、ノーマルでチェックしたことってなかった。

で、今後の課題としては、EXシステムがひとつ。
だけど、ここには問題がある。ブロックの立ち
が違うので、既存のマニホールドは使えないのだ。
ま、アタッチメントをかませるという方法はあるけど……。

現在の仕様は、HKSの264/264度カムに
STDサイズバルブ、CA18DE改83φピストン、
7A-FE用コンロッドを0.5偏心加工して、
同じく7A-FE用85.5クランクを組み合わせている。

その結果として、これまでにない大排気量を
実現したということと一緒に、中心間距離の
長いコンロッドを使えることによって、
ピストンのフリクションロスがなくなり、
これまでの4A-Gとは違ったエンジンを
作ることが可能になったわけだ。

これは、非常に大きい違いになる。
エンジンのフィーリング自体が変わってしまうのだ。
ピストン径とストローク長の比率で、
どのあたりがいいのか?という疑問もあることは
あるのだが、昔の常識(?)であったショート
ストロークは回転型、ロングストロークは
トルク型という分け方は、ホンダエンジンの
登場によって覆されている。

ロングストロークだからレスポンスが悪いとか、
オーバースクエアだから反応が素早い……
そんなこととは違った部分というか、
考え方が出てきているのだ。

今回の試乗フィーリングから、
今後の8A-Gのチューン展開が、
少しずつではあるけれど見えてきた。

どのギヤに入っていても加速するもんだから、
クロスミッションが入っているかのような
感触を受ける。トルクが余っているというか、
無駄遣いをしている感じなのだ。

だから、現在のファイナルである4.1の
ギヤ比を変更して、3.9、3.7、テスト的に3.5と、
落としていってみる。これでも十分なトルクを
発生するようなら、これまでの4A-Gチューン
常識とは、ずいぶんと違ったエンジンが誕生する。

まるでクルマが変わってしまったかのような印象を
……ンッ?? ちょっと待った。こんな話、
どこかで聞いたことがあった……そう、そうそう。
L型だ〜。L型ですよ。

その昔、S30Zに搭載されていたL20エンジンは、
いろいろとチューンしていくと、フィーリングも
変わるし、L24やL26エンジンをベースにして、
様々なチューンが行なわれていたのだが、
ある日、突然、L28ブロックが登場し、
おまけにLD28クランクまで組み合わされてきたもんだから、
それまでの常識を大きく外れる3♀、3.1♀という
排気量が可能になった。

だけど、変わったのは排気量ではなかった。
クルマが変わってしまったのだ。S30Zという
乗用車が、S30Z改というスポーツカーに
変身してしまったのだ。

この衝撃は大きかった。まるで別物の
クルマになったかのように、S30Zは、
ストリートでカッ飛び始めた。そして、
そこからが、本物のL型チューンが始まったのだ。

これは、今回の7A-FEブロックを導入した8A-Gと、
オーバーラップする部分が大きい。

ただし、L28ブロックがボルトオン感覚で
S30Zに搭載できたのに対して、7A-FEブロックは、
AE86にボルトオンでは搭載できない。

ブロック寸法が違うので、これが原因となって、
マウントの高さ、コグドベルトの問題、
フライホイール、ウオーター通路、フロントカバー、
EXマニホールド……いろいろな部分で、
寸法是正のための調整が必要になってくる。

つまり、4A-G用に開発されたパーツのうち、
寸法上使えないものがいっぱい出てくるという
ことだ。だけど、だ。L型のケースで考えてみよう。
L20改用のパーツが、L28改3♀に使えるだろうか? 
40φのソレックス、細いタコ足、432用デュアル
マフラー……現在のL型チューン事情から
考えてみると、とてもじゃないけど使えないパーツだ。

8A-Gも同様のものだと考えてみると、いろんな
部分で納得がいく。排気量がノーマルとは264ccも
違っているのだ。1気筒あたり66ccだ。この差はも
はや別物エンジンだと言ってもいいだろう。

コンロッドの首の振り角が変わり、ピストンの
ピンヘッド寸法が短くなり、オイルパンが大容量に、
そしてアルミ製になる8A-Gは、すべての面で
これから熟成をかけていくことが要求されるし、
そうすることでもっともっと凄いポテンシャルを
発揮するようになってくる。

ただし、エンジン本体のパワー&トルクアップに
ばかり目を奪われていると、足もとをすくわれてしまう
ことがよくある。L型も、パワーアップの連続の結果、
ミッションブロー、デフ、ドライブシャフトと、
次々と問題が出てきた。

同様に、AE86に搭載するとなると(AE92だと、
ちょっとコントロールしきれないジャジャ馬に
なってしまうこと必至)、問題になってくるのは
ドライブトレイン系だろう。

RSヤスでは、AE86後期型の強めのドライブシャフトでも
ダメだろうと考えている。だから、昔のジェミニに
使われていた強化タイプのドライブシャフトが使えないか
検討中だ。そして、ミッションはT50を完全OHして
使用する。他には、1Sや3S、あるいは1G-Gのミッションを
ベルハウジング部分にスペーサーをかませて使用する
ことも考えているが……たぶんT50で間に合うん
じゃないか?と予想している。

そして、最大のネックはブレーキシステムだ。
ミニサーキットでの走行や、ハードな峠走行では、
パワーの出ているエンジンを搭載したAE86は、
ブレーキシステムがネック。

ほとんど使えないという状況に陥ってしまうのだ。
だから、ここは最初に手をつけておきたいと、
ホンダのVーTEC用の大径ローターをボルトオンで
装着できるキットを開発した。ま、開発といっても、
それほどたいそうな加工じゃない。

AE86のノーマルキャリパーを使って、VーTEC用
ローターの穴を開け直したもの。直径で25o違うので、
これまでプアなブレーキで苦しんでいたAE86オーナーに
とっても渡りに舟状態だろう。

「最初は、意地半分でやってた部分もあったんです。
4A-Gを集中的にやってきて、できないと言われると、
意地になって、絶対に作ってやる! そんな感じも
あったんですけど、次第に形になってきて、
実際に走らせていくうちに、知らず知らず真剣に
なってきていることに気がつきましたよ。
これは違う。これまでの4A-Gとは、全然違う。
まだまだわからない部分も多いし、やっていかなくちゃ
いけないことは山積みですけど、そういうものを
克服していった先には、これまでの4A-Gの常識を
超えたエンジンができあがる……そう思いますよ。ホント」

とっぴな発想かもしれないが、7A-FEブロックと
L28ブロックの共通点から、8A-G専用チューニング領域、
その可能性、発展度と、これからド注目のエンジンで
あることは間違いない。

これまで考えていたAE86というクルマが、
8A-Gと出会うことで、まったく別のクルマに
変身するとしたら、これほど楽しいことはない。
一粒で二度おいしい……おっと、これはゼロヨン
&ドリコンのアートガレージAE86か??




成功の鍵 
KEY
◆4A-Gヘッドと7A-FEブロックをドッキングするという発想は、だれでも考えつくところだが、現実に作り上げるためには、様々な問題が発生してくる。ブロックの高さが違うということが、一番重大なポイントだ。このおかげで、いろいろな部分に、不具合、寸法違いが発生してくる。
 だが、最大のポイントは、コグドベルトだ。長さが変わってくるので、これまでのものは使えない。プーリーを加工するか、最適なものを見つけるか? RSヤスでは、後者の方法を取った。ここがクリアできれば、8A-Gは、半分完成したようなもの。だけど……そこからもいろいろな部分で、苦労があるんだけどね〜。


キャプ1
●RSヤスのエンジン加工の仕掛人である内燃機加工「カトー」の戸井田さん(右)と、8A-Gの具合をチェックする。トルクフルで、これからの新展開エンジンに育っていってくれるはず。これまでのところは大成功!
キャプ2
●排気量が大幅に増大しているので、インテーク側にはISMオリジナルの大容量サージタンクをセットしている。これは、ノーマルの1.4倍程度の容量を持ち、内部はファンネル構造になっている。

キャプ3
●で、逆側を見てみると……なんとノーマルのEXマニホールド……どういうことだ?と聞いてみると、これまでの4A-G用のマニでは、すべて足りないという。戸田レーシングの42.7φタイプでも足りない……のだ。



4A-Gチューンの第一歩
ハイコンプに始まりハイコンプに……満足する!!
だけど燃料セッティングにゃ気をつけろ

8A-Gはすごいけど、プライベーター諸君が、
コイツに取り組むのはもう少しデータが
出そろってからのことになるだろう。

というか、いま4A-Gチューンでの最高人気
バージョンは、なんといってもハイコンプ仕様だろう。
エンジンのOHを兼ねて、AE92後期型の
ハイコンプピストンを組むってのが、
一番数が多くて、みんなが知りたい部分。

4A-Gチューンは、まずここからなのだ。
当然、エンジンをバラして、シリンダー状態を
チェックした上で、ハイコンプピストンを
組み込むわけだが、ここでみんながしている
勘違いに関してチェックしておきたいのだ。

というのも、みんなの頭のなかに、AE92後期型
ピストンを組めば140馬力仕様
……そういう考えがないだろうか?

確かに、AE92後期型は、140馬力仕様なのだが、
これはピストンを換えただけじゃ実現できない
数値なのだ。というのも、AE86とAE92を
比較すると、いろいろと違うところがあるのだ。

まず、インジェクターの吐出量が違う。
そして、噴射方式、コントロールの具合が違う。
だから、AE86のノーマルノズル&コンピュータの
ままでは、全開くれるとエンジンブローの可能性が大きいのだ。

AE92のインジェクターに交換したケースでも
燃料不足は発生する。というのも、AE86とAE92では、
抵抗値が違うので、絶対吐出量が多くなっていても、
実際に出る量は少ないのだ。

だから、ノーマル状態で乗ってるのは絶対的に問題あり。
「まさか?? だって、サブコンで燃料調整したら
大丈夫だって……」たしかに、ストリートでの
一般走行なら不具合は出ないようだ。

だけど、サーキットに持ち込んだり、峠でハードな
走りをしていると、燃料不足が原因でノッキング、
タナ落ちといったトラブルが発生する。
ボクのはまだ大丈夫と言ってるひとの場合は、
本当の意味での全開はしてないというのが原因だろう。

だから、ハイコンプピストンを入れた仕様でも、
キチンとコンピュータチューンをしておきたい。
それに伴って、燃料ポンプの燃圧チェック、
フィルターの目詰まり等をチェックしておこう。
燃圧を計るときは、圧力を計れるものを
燃料パイプにつないで、2.5kg/cm2以上の
圧力があればOKだ。フィルターは、
古くなったら交換すべきもの。

こんなところでケチッていて、エンジンブローしたら、
貯金通帳はたかなきゃいけなくなるから要注意!!

ハイコンプチューン以上になると、これはもう
コンピュータチューンは常識。ボアアップの4.5A-G、
ストロークアップの5A-Gときたら、インジェクターの
アップやROMチューンと併用して、バッチリと燃調を
取ってやろう。そうすれば、キミのAE86だって
まだまだ現役スポーツマシンだ〜!!

キャプ1
●総排気量1850ccにもなってしまった4A-G改8A-G。
だが、このエンジンは、4A-Gから発展してきた最大
排気量バージョンというよりも、まったく別の
ブロックを導入したという点で、L28のケースとよく似ている。

キャプ2
●コンピュータは、4A-G用をベースにした
ROMチューンで対応している。だが、
基本的な制御はできるものの、もっと細かく、
もっと緻密にセットアップしたいという希望が
あるので、今後の展開に期待したい。

キャプ3
●ブロックの高さが違うので、様々な部分で
寸法違いが発生してくる。指さしている
フロントカバーもそのひとつ。足りない部分を
切り張りしてある。ちょっとの差なんだけど、
いろんな部分でフィッティングが必要。

キャプ4
●この部分も、ブロック寸法の差が原因で
改良しなくてはいけない部分。水の通路パイプ
があるのだが、ここも寸法を延ばして水が
まわるように改造。オイルレベルゲージも
7A-FE用を使用しなくてはいけない。

キャプ5
●今回、エンジンのパワー&トルクアップに
伴って、足まわりをググッと強化。というのも、
AE86のノーマルでは、ハードな走りをすると
ローター径が足りない。で、ホンダのV-TEC用
の25大径タイプをボルトオン!!





RS YASU 8A-G DATA 

カムシャフト●HKS264度
バルブスプリング●ISM強化シングルタイプ
ヘッド●AE86改STDサイズ改タイプ
ブロック●7A-FE改83φ
ピストン●83φCA18DE改ハイコンプ
コンロッド●7A-FE改側面鏡面0.5偏芯
クランクシャフト●7A-FEノーマル
コンピュータ●調整機能付きISMECU
サージタンク●ISM大容量タイプ
スロットル●NISMON2用4連スロットル改
EXマニ●AE86用ノーマル
マフラー●ISM50-60φシングル



レーシングサービスYASU

〒329-1216 栃木県塩谷郡高根沢町桑窪2170-8
0286-76-0195

http://blog.livedoor.jp/rs_yasu/

 




■ これまでのRS YASUによるエンジン開発の履歴 ■

 

最新式TOYOTA AE86の2017年仕様

  ブロック偏心が可能にした8A-G仕様
  4A-Gの究極進化形となる9A-G仕様

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