手探りのスライダーCLUTCH調整探訪!

BLACKLINE(埼玉)

走行の度に調整を必要とする
スライダーCLUTCHを
独自の方法論で短時間調整……

スライダークラッチは、ウエイトを調整することによって、
圧着ポイントや圧着力等を調整することができるクラッチ。
一般的なクラッチというのは、フライホイール、クラッチディスク、
プレッシャープレートという3要素から構成されている。
このうち、真ん中に入るクラッチディスクが2枚ならツインプレート、
3枚ならトリプルプレートタイプとなる。

クラッチの圧着力というのは、クラッチディスクの口径や摩材、
プレッシャープレートのバネの強さ等で決定されている。
いまでは、1000馬力といった驚異的な出力にも対応できるような
製品が販売されている。

しかしながら、ドラッグレースで使用されるエンジンの出力は、
このあたりの馬力とはワケが違う。燃料も、ガソリンからレースガソリン、
アルコール、そしてニトロ燃料と、ばかみたいなものを使用する。
その結果、出力は1000馬力どころか、2000、3000、いや1万馬力なんて
ケースもあるのだから、通常のクラッチシステムを使用したら、
一発で滑ってしまう。半クラは効かないし、踏力も人力では無理な値に……。

そこで、考え出されたのがスライダークラッチというシステム。


 

多板式のプレートを持ち、それを圧着するプレッシャープレートの
バネの力をスプリングやウエイトを組み込み、それがレバー比で
強力な圧着力を実現しようと考えられたものだ。

しかしながら、システム的な変更を施した結果、
対応馬力が飛躍的に増大した代わりに、欠点も存在する。

一般的なクラッチなら、一度調整を行えば、ある程度の期間は
その調整範囲内で使用し続けることができる。

また、レース用のクラッチになると、熱で反ったり、
通常では予想されていない使用状況に陥らない限りは、
最低限ワンレースは保つように計算されいる。

そういえば、こないだのル・マン24Hレースで、トヨタが
ゴール寸前にリタイアした原因が、クラッチトラブルだったようですね。
行けと言ったり、間違いだったり……その結果、想定外の使用状況が生まれて、
クラッチトラブルが発生したようですが、ま、そんなもんです。

スライダークラッチの場合なら、スタートのやり直しをするだけで、
セッティングが変わってしまって、スタートできないという状況が、よくある。


もうずいぶんと前の話になるが、CARBOY0→400mの仙台ハイランドで、
エスコートの300ZXがスタートしようとしたときに、スタッフのミスで
プロスタートではなく、ストックマンスタートになってしまったことがある。

塩原選手は、当然のごとく、プロスタートの頭でステージングしてきたのだが、
次の瞬間、アンバーライトがひとつずつ0.5秒毎に点灯しはじめた……。
もちろん、スタートなんかできない。

必死で謝った藤本だったが、覆水は盆にかえりません。
憤懣やるかたないスタッフの宮野さんが、近くにあった消化器を
投げつけて、藤本を睨みつけていたことを思い出しました(笑)

宮野さんというのは、一番下の動画で「モッチャン、モッチャン、
水の撒き方……」と言ってるヒトです。塩原さんと渡米して、
向こうでトロフィーを獲得したスタッフ
です。

それくらい、スライダークラッチの調整というのは、シビアなもんです。

一度走ったら、摩材が減ったり、反ったりするので、
調整していたクリアランスに変化が生じます。

その結果、そのクリアランスを再度調整するために、
一度クラッチを降ろして、調整をする必要があります。

そうなんです。ドラッグマシンで、スライダークラッチを使用している
マシンの場合、1回走行するごとに、クラッチを降ろして、調整が必要なんです。

本場アメリカでは、そういうことは『常識』なので、
1回目の走行と、2回めの走行には、そうとうの時間が設けられています。
その時間を使って、スライダークラッチを調整するわけですが、
その調整は、先に言ったように、クラッチのクリアランスのみを調整するのではなく、
その日の路面やエンジンの状態、ライバルの様子など、いろいろな条件を考え合わせて、
ベストな状態のスタート実現するために、ウエイト重量を変更したり、
レバー比を調整したり……非常に重要なポイントとなっています。

だから、クラッチマン(スライダークラッチの担当者)は、コースを読む能力と、
よりよいスタートをさせるための経験値が必要になってくる。

だから、優秀なクラッチマンは、スポンサーの目に留まれば、
次年度のドライバーに抜擢されることがある。
そして、そのまま勝ち続けてシリーズチャンピオンを獲得したり
……これは、実際にあった話であります。

とまあ、アメリカではそうなんですが、日本では、なかなか
そんなことを斟酌してくれるレース開催者は少ないのが現実です。

「早く走ってくれ!」
「まで準備できないの?」

必死でクラッチを降ろして、調整しているスタッフに、
非情な言葉をかけるケースも多いです。

そんな国内の状況の元で、なんとか、スピーディに
クラッチ調整をすることができないか?

これが、今回、ブラックラインの鈴木さんが
取り組んでいる案件であります。

 

☆BLACKLINE CLUTCH

下のビデオは、いろいろとスライダークラッチのことを
やり続けてきた鈴木さんのよもやま話……です。

Flash Playerが入っていないブラウザー&Android端末の場合は動画を見ることができませんので、
上のYoutubeボタンを クリックして見ていただけますよう、お願い致します。

ブラックラインでは、ミッションやデフ、シャフト類の
修理を行っている。これは、けっこう特殊なことで、
レース用のクロスミッションや、デフ、リングギヤと、
いろいろな『故障品』が持ち込まれてくる。

ギヤの修復をする場合、素材や切削、表面処理等、
いろいろな要素がかみ合ってくる。
その作業を日常的に受注している鈴木さんだけに、
自分のスライダークラッチも、どうにかならないか?

クラッチを降ろしている時間がないことを考慮して、
車上で調整できないか?

そのために、スライダークラッチの内部構造を変更して、
クラッチを外さずに、プレート等のクリアランスを調整する機構。
それを考え出し、いろいろと模索しているというのだ。

細かいことは、実際に、鈴木さんの口から語ってもらうが、
ミッションハウジングに工具が入る穴を設け、
そこから、考えた機構を使って、クリアランス等の調整を行う。

 

 

JDDAのオフィシャル会議に、ブラックラインの鈴木さんが
参加するようになってから間もない頃のこと、
前フリもなくいきなり鈴木さんが、エスコートの塩原さんに話しかけた。

「塩原さん、プロストックに乗りたいんっすよ。
1台で、いいですからくれませんか?」

周囲のオフィシャルは、唖然とした。
「本気か? コイツ!」そのときは、全員が
「なにトチ狂ったこと言ってんだよ〜」と、
なかったことにした。

その鈴木さんが、数年後、プロストックを入手し、
仕事の合間(仕事をほっぽらかして?)に、コツコツと手を入れ、
いろんな部品を作り、塩原さん指導の元、プロストックを走らせ始めた……。

藤本は、正直言って、びっくりしました。
あのとき、冗談のように受け取っていた言葉は、
本当にホントの話だったんだ。

ブラックラインの鈴木さんというのは、
非常に特徴的な人間である。

ダーウインの進化論的に言えば、猿が、類人猿的に進化し、
それがヒトに進化していった……となるのだろうが、
鈴木さんの場合、猿が類人猿のふりをしながら、
ヒトの皮を被ってしまった、とでも言ったらいいのだろうか?

サニトラでストリートゼロヨンをやっていたオトコが、
いつのまにか、HKSドラッグミーティングの顔役になり、
コンピュータのことなんか、まったく理解できないだろう
という周囲の予想を360度裏切って、メインコンピュータの
解析とVPのコントロールで、アッと言わせたり、
プロストックシャシーを入手して、独自のエンジンを搭載し、
バカが選ぶようなどでかいタービンを組み合わせている反面で、
クラッチ内部の細かな構造変更を、延々と試行錯誤してみたり……。

おっと、話がズレまくりました。

現在、鈴木さんが、このマシンを走らせる機会は、非常に少ない。
仙台ハイランドが閉鎖してしまって、JDDA EASTのレースは中断中。
呼ばれるイベントはいろいろとあるものの、その殆どが客寄せパンダ代わり。
でも、そういう少ない機会を逃さずに、少しでもフルパイプの
プロストックマシンを速く走らせたい。

そういう存在は、いまどき、貴重だと思う。

たとえ、その方法論が間違っていたとしても、
本筋から外れていたとしても、
冗談から出たプロストックを、本気で走らせたいと
思う気持ちは、応援させていただきたい、と思う。

 


そして、今回の焦点である『スライダークラッチの独自の調整術』
の話を、しておかなくてはならないだろう。

●ダイヤルゲージの測定部先端にイモネジ&ストッパー機構をセットする。
●プレッシャープレートにある3箇所のサービスホールにセットできるようにする。
●まず、クラッチに問題がない状態で、初期値が0になるようにセット。
●走行後、同じ箇所で、ダイヤルゲージ改をセットして、エアギャップ量を測定。
●クラッチを切った状態で、マイナス側に振れれば、ディスクが減ったか、反ったか。
●その後、調整が必要であれば、調整作業を行う。
●調整が終わったら、ベルハウジングの蓋をセットしてから、スタート回転まで回転を上げる。
●このとき、ブレーキのプレッシャー圧をセットして、クルマが留まっていられるか?
●前にズルズルと出るようなら、あるいは、クラッチペダルが重すぎて耐えられないようなら、
●再度調整。再びチェック……OKなら、スタート地点に向かう。

となる。

 

つまり、クラッチ本体の加工ではなく、測定器の専用化を図ることで、
素早くエアギャップを測定することができ、その後、スタート時に、
しっかりとドライバーがクラッチコントロールできるかどうか?
これをチェックするということになる。

走行後に、クラッチを外して、エアギャップを測定し、ナニもなければ、
そのまま組み込む(ま、アメちゃんはそんなことはしないと思うが)わけで、
問題が発生していなければ、そのままいけるものを、
いちいち外してチェック……という手間が生じるわけだ。

ま、このような専用装置を工夫して、すこしでも短い時間内に、
クラッチの状態を把握することができれば、日本の現状では役に立つケースもある。

下に、鈴木さんが初めてプロストックを走らせたときの動画を掲載しました。

いろんなひとが、いろんなことを言ってますが、
ドラッグレースに関連する人たちは、口は悪いが、仲間意識があり、
それまでにないチャレンジをしているヒトに対しては、
協力をおしまないという傾向があります。

鈴木さんも、エスコートの面々にいろいろとノウハウを聞きながら、
自分たちの手で、プロストックマシンを、速く走らせたい!
そういう気持ちが、今回の取材でも、ヒシヒシと伝わってきました。
走らせる場所がない状況下のもと、将来のレースに的を絞って、
コツコツとノウハウを蓄積しているわけです。

誰です? 「今後、新しいクラスを作らないと……お笑いプロストック!!」
なんて、失礼なことを言ってるやつは(笑)

 

☆BLACKLINE FIRST TEST

下のビデオは、BLACKLINEのマシンが、
初めて走ったときのものです。
何事も、最初というのは……楽しいものです(笑)
そして、その翌年の走行を、おまけで入れました。
将来、強烈なスタートがきれることを願って。

 


BLACKLINE


〒350-0804埼玉県川越市下広谷690-1
TEL:049-239-6667

 

 

 


↑できるだけ、いろんな方に見ていただきたいので、
よろしかったら、お願いします。


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