BOOST2.0kg/cm2でクロスポートがブロー!?

1985年頃

撮影中にエンジンブロー
SAKOレーシングの13B
クロスポート裏話

1984年度に開催されたCARBOY0→1000mで、
19秒636と、その前に柿本レーシングZがマークした20秒888という
強烈タイムを一気に更新してしまったSAKOレーシング。

それまでは、谷田部に来ても壊れて走れないということが
何度も繰り返されてきただけに、その思いが一気に炸裂した一瞬だった。
当日は、6回の走行を行い、21秒391→21秒270→20秒599→20秒566→
そして最終的に19秒636というタイムに凸立つした。
そのときのゼロヨンタイムは、11秒752→11秒637→11秒387→11秒381
→10秒839……つまり、6回走って、一度もタイムダウンせずに、
少しずつタイムを稼ぎながら、最終的に大記録をマークしたということになる。

当時のリザルトを詳しく見て、そのことにびっくりした。

「ワシは、適当やから(笑)」と、言う左光さんだが、
その裏に、こういう数字が存在していたのかと、あらためてびっくりした。

その後、SAKOレーシングは、RX-7はもとより、L型を搭載したZを使って、
CARBOYやRRCのドラッグレースを戦っていくことになるのだが、
とにもかくにも、まともに走ったのは、
このときのCARBOY0→1000mが最初だった。

その秘密を取材しようと、大阪門真市のSAKOレーシングを訪れて、
取材したのが、下の記事である。

タイトルには、「SAKOレーシング420馬力RE POWER!」とあり、
その脇に、「フルブースト2kg/cm2」とある。
そして、見開き使いの写真に写っている
ブースト計の針は2kg/cm2を指している……。

当時のカメラマンは、鉄谷写真事務所の鉄谷さん。
コクピットにカメラをセットして、
「じゃ、お願いします。あ〜、そこで、はい、止めて、
もう一枚、あ、もう一枚……」と注文をつけている最中に、


13Bクロスポートエンジンは、ブローしてしまった(笑)

「あ、いってもうたな〜(笑)」と笑う左光さん。

カメラマンの鉄谷さんの表情は、若干引きつっている。

「ええねん、ええねん、このエンジン、水穴も適当にうめてるだけやから」

SAKOレーシングの13Bエンジンは、
左光さん命名の「クロスポート仕様」である。
ノーマルのサイドハウジングに設けられているサイドポートと、
ローターハウジングに新たに設けたペリフェラルポートの
双方を使用するタイプのもので、マツダの正式名称としては、
「コンビネーションポート」と呼ばれるもの。

だが、左光さんは、そのことは知らなかったという。

使用するハウジング類は、サイドハウジングもローターハウジングも中古。
もちろん、ローターやインタミ、エキセンも中古である。
シール類は新品だがノーマル品。
ペリポートはパイプを入れて、水穴は適当に塞いだもの。
サイドポートは、ノーマルの段付きも取っていない。

REチューンの命とも言われるクリアランス設定は、
「大きめ、やね。指で押してみて、適当な余裕があればOK」

ただし、エキセンとプーリー、フライホイール、クラッチ込みの
ダイナミックバランスだけはキチンと取ってある。

組み合わせるツインターボは、VG30ET用で、ブースト設定は2kg/cm2。

 

とまあ、ここまで話を聞いていただいた方には、
「なんて、適当なんだ」「こんなエンジンでタイムが出るわけが……」
そういう言葉が、頭のなかに渦巻いていることと思います。

はい、藤本もそう思いました。以前掲載したファニーレーシングの
芸術的なブリッジポートや、スポーツキットを使った精緻な組み。
あるいは、トップフューエルの熊木さんが行っている、
サイドシールのクリラランス設定方法等と比較すると、
本当にいい加減に見えるし、事実いい加減だった。

ただ、いい加減という言葉は、悪い意味ばかりではないと
気付かされたのがSAKOレーシング流のチューニングだった。

ローターとエキセンのクリアランスは狭めにセットし、
ダイナミックバランスを施し……つまり、エキセンを
どれだけブレさせずに回すか?ということに重きをおいているわけだ。

以前、マツダ本社に取材に行ったときに、
最初にした質問が、

「整備解説書を見てて、おかしいなと思うんですが、
エキセンのクリアランスですけど、フロント側は一般的な
数値なのに、リヤ側は異様に広い数値なんですよね。
これは、普通に考えると、エキセンの振れを止められないので、
リヤのクリアランスで逃しているとしか考えられないんですけど、
その解釈でいいんですか?」だった。

マツダのエンジン開発担当の方は、しばし考えた末に、

「その質問に関して、どう答えればいいですか?」

「いえ、誤魔化してくれるなら、それなりの取材にしますし、
正直に言ってくれるなら、しっかりと取材させてもらいますけど」

「……おっしゃるとおりです」

担当の方は偉かった。その後、REというエンジンに関して、
藤田エンジニアリングの藤田さんも交えて、有意義な
取材をすることができましたが……ま、それは、それとして、

左光さんが、独学で、数知れない13Bエンジンを壊しながら、
独自のクロスポート仕様を作り上げたなかには、
REにとっていちばん重要なことはナニか?
ということが含まれていたような気がしてならない。

冒頭に述べたように、タイムを一度もダウンさせずに
走らせることができるのだ。磊落な外観と喋り口調の
裏側に、どれだけのブローと、メイク&トライが
行われていたのか? 口で言うのは簡単だけど、
それをやり続けるということは、尋常ではない。

谷田部で行われたCARBOY0→1000mの現場で、
空ぶかしをしているSAKOレーシングRX-7のエンジンを
見たことがある。

アルミ製のサージタンクが、膨れ上がっていた。
こ、こんなんで、大丈夫か? そう思った記憶がある。

その後に19秒台の大記録だった。

 



取材が終了して、帰ろうとしたときに、
左光さんが「藤本さん、時間、ある? 
もしよかったら、居酒屋でもいきません?」

嫌いなほうじゃないので、カメラマンの鉄谷さんと分かれて、
左光さんと、居酒屋さんに行った。

藤本は、JDDAを始めてからは、いろんなひとと一緒に
呑んだり食べたりするようになったんですが、
それまでは、あまり行かなかったんですよ。

仕事が絡むと面倒くさいし、おごってもらうのも嫌だったし、
それが借りになって、そいつが仕事に関係してくるのも
いやなので、呑むときはいつもひとりか、カメラマンと。

でも、そのときは、そういう感じでもなかったし、
左光さんは、そういうタイプでもないので、素直に一緒に呑んだ。

ふたりとも、メーターがグングン上がっていくなかで、
いきなり左光さんが話し始めた。

「藤本さん、ワシな〜、もとは土建屋やねん。土管を設置して、
そんな仕事ずっとしてたんや。勉強はあかんし、仕事しても、
そんなにできる方やないし、生まれてからいっぺんも
褒められたことないんや。そやけど、こないだのCARBOY0→1000mで、
一等賞になって、藤本さんからトロフィーもろて、
『左光さん、凄かったわ〜』って、褒めてもろてん。
初めてやった。自分が好きなことをやって、同じように好きなことを
やってる人間同士で勝負して、ほんで、勝って、褒められて……。
生まれて初めてやったんや。嬉しかったな〜。ホンマ」

なんだか、ジンッときた。

酔っていたせいもあると思う。でも、谷田部とは違った意味で、
左光さんというひとが、これまでどんだけやってきたのか、
ヒトにまったく評価されないままに、独自の方法で、
REというエンジンをベースにして、自分だけの考えと、
実験に次ぐ実験を繰り返して……。

ええ話でしょ(笑)

 

 



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