15年目の15秒912……

小林 航(愛知)

RACEというのはタイムとの戦いであり
『時間』との根比べでも……ある


もうひとつのJDDA DRAG RACEリポート

 

 

2017年度のJDDA WEST最終戦に、
1台のマシンがエントリーした。

PRO COMPクラスでの予選結果は、
E.T.Time 15秒912。
ゴール地点での終速は、135.8km/h。

PRO COMPというカテゴリーは、
ストックボディをベースにした、FR車両のTOPカテゴリーであって、
厳密に言えば、このマシンはフルパイプフレームを有しているので、
レギュレーション的には異なるのだが、タイムが遅いので許容されている。

現在、セントラルサーキットでのPRO COMPクラスは、
9秒台から8秒台に突入し、その中盤を狙うレベルに達している。
終速でいえば、250km/hを超える領域にある。

 

そんな状況のなかで、どうしてE.T.Timeが15秒台の、
このマシンを取り上げるのか?というところから、
話を始めたいと思う。

ドライバーは、小林 航。
知っているヒトにとっては周知のことなのだが、
JDDA WESTのスターターであります。

思い起こせば、CARBOY0→400mが終結したのは、
2001年に発足したJDDAという存在があったからだった。

そして、仙台ハイランドで始まったJDDA EASTに加えて、
セントラルサーキットでのJDDA WESTは、遅れること2年後の発足。

その最初の会議のときだったか、その次だったか、
中部、関西地区を中心とした有志が集まっていたときに、
片隅に座っていたのが、小林だった。
当時は、RE系のプライベーターであり、
現在も、プライベーターであることに変化はない。

仙台ハイランドのEASTオフィシャルとは異なって、
WESTのオフィシャルには、プライベーターが多い。

そして、その原動力というのは、

「いつか、自分のマシンを走らせたい!」
「そのときに、ドラッグレースが存続していて欲しい」

である。その思いが、2003年度から2107年度へと継続している
JDDA WESTのオフィシャルの根本原則でもある。

会議の席上での、藤本の発言は、本当に無礼そのものだったと記憶している。

「あ、小林くんっていうの? クルマはなに?」
「いえ、まだ、できてないんですけど、そのうちに……」
「あ、そ」

当時製作していたマシンとは、少々異なっているのだが、
いろいろな紆余曲折を経て、昨年度に遅まきながらのデビューとなった。

 

足かけ15年という『歳月』が経過した、わけだ。

ひとくちに15年とは言うが、なかなかの時間の量である。

よく、様々なひとに聞かれることがあります。

「藤本さん、ドラッグレースって、400mしか走らないじゃないですか?」
「なんだか、あっという間に終わって……」
「しかも、まっすぐしか走らないし」
「パワーさえあれば、速いタイムがマークできるんじゃ?」

そうです。

おっしゃるとおりです。
ドラッグレースというやつは、たった数秒で終了し、
ただただまっすぐ走っているだけの競技であります。

でも、そんなときに言うのは
「スポーツとして考えるなら、周回やそういう方が楽しいでしょうね」

「クルマと一体になったり、抜きつ抜かれつというのは面白いでしょう」

「でもね、勝負ということを考えると、スポーツ走行的なものではなく、
純粋に、ライバルとの勝負ということを考えると、スプリントであろうが、
耐久であろうが、1位とそれ以外の勝負ポイントというのは、ひとつの
レースのなかで、何回あるでしょうね?」

「???」

「予選でトップタイムを獲得して、スタートしてから先行逃げ切りだったり、
最終ラップまでに、先行するドライバーを騙して、騙して、最後の最後に、
抜くというケースや、貯めに貯めた温存出力を、1回だけ有効活用したり、
勝負どころというのは、1位をかけたケースでは、少ないでしょ。
ドラッグレースというのは、その勝負どころが、『常にスタート地点にある』競技なんです。
真っ直ぐ走らせるということは、クルマを曲げるということと同じ能力を必要としますし、
400m程度の競技距離は、ほんとうにアッという間の出来事ですが、
自分でクルマを作ったり、パイプを曲げるところから始めたり、
スタート地点に着くまでの『時間』というのは、他の競技よりも長いことが多いんです」

「???」

ル・マンのユーノディエールに行ったこともありますし、
モナコグランプリにも行きました。
でも、NHRAで見た、さっきまで静止していたクルマが、
数秒後に、数百km/hというスピードに到達してしまうという
圧倒的な加速というものを目の当たりにしたときに覚えた感動と、
同じクルマを使ったレースでありながら、こんなに違うものなのか?
いろんな国柄、国民性、歴史が異なれば、その数だけ価値観が異なるのか?

そういったものを感じました。

そして、ドラッグレースというのは、若者はもちろんでありますが、
年齢がいっても、つまり、おじいちゃんになろうが、やれるレースでもあります。
もちろん、トップカテゴリーは無理ですが、それなりに、自分のペースで、
レースに参加し続けていくことができる『RACE』でもあるんです。

話を戻します。

 

JDDAというレースのなかで、十数年間スタートラインに立ち続け、
数知れないほど、スタートボタンを押し続けてきた小林が、
昨年度の年頭に、藤本に電話をかけてきました。

「藤本さん、今年から、エントラントとして、JDDAに参加したいんです」

「……うん」

それまでも、JDDAのオフィシャルが、エントラントとして参加するという
ケースは、幾度か発生していた。そして、そのたびごとに、「……うん」と
いう返答をしてきました。オフィシャルを依頼するときの最初の約束でもあります。

だが、小林は、昨年度の第1戦、第2戦にエントリーしませんでした。
第2戦時には、「エンジンをかけたいので……」といって、


バックヤードで、一人コソコソと作業をしていました。

そのときの写真が、下記のものであります。

        

 

そして、最終戦になって、ようやくエントリー。

 

頭のなかが真っ白になっている小林は、
予選終了時刻を数分過ぎてから、スタート地点付近に
クルマを持ち込んできました。

「……もう、PRO COMPの予選は終わったよ」

「……だめ、ですか」

「うん」

ただ、この日は、予想外のコースコンディションの悪化のせいで、
通常の予選→トーナメントラダーという進行ができない状況だったことと、
次のクラスであるPRO DRAG WESTの予選走行の途中だったという状況でもあったので、
例外的に、予選走行を認めました……ちょっと、甘かったかな(笑)


☆2017 12 9 小林試走

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15年目にして、ようやくスタートをきることができた模様を、
上のビデオに記録しておきました。

映像をご覧になればおわかりのように、
バーンアウトも、ステージングも、スタートも、
なにもかもが、チグハグであり、なっちゃありません。

しかしながら、これまでの『歳月』のことを
考えると……エールを送らざるを得ないというのも、藤本的な心情であります。

クルマを作るためのデフAssyを、軽四のバンに積みっぱなしだった小林。
資金が枯渇して、食事を抜いていた小林。
JDDAのマシンを走らせたいというD1側の要請で、
中部の空港に行ったとき、パンフを置く台がないか?と聞いたら、
「大丈夫ですよ、会社の机借りてきますから……」といって、
バカ重いスチール机を持ってきたかと思うと、
撤収のときに、そのまま放りっぱなしだった小林。
翌日、職場では「事務机がないっ!」と大騒ぎになったのに、
知らん振りをしていたという小林。

バカです。

でも、ちょっとばかりバカでないと、こういうことは
できないものだと思います。

藤本は、CARBOYという雑誌のなかで、プライベートでドラッグマシンを
作ってきたヒトたちの取材を続けてきました。延べで100人は超えます。

その、殆どの人間が、多かれ少なかれ、
こういった『バカ要素』を
持ち合わせていました。

このクルマの細かい内容のことは、実のところ、あまりよく知りません。

REなんだな〜、NAなんだな〜、パイプなんだな〜。
ま、それくらいです(笑)

でも、このクルマを動かすことができるようになるまでの、
小林的な『時間』のことは、なんとなく、知っています。

昨日UPした、奈良のマツモトエンジンの松本さんと、
今日電話をしました。

「HPに乗せてもらったRB30ですけど、まだ、現役で走ってますよ。
こないだも、きれいなタコ足を長野で作ってもらったみたいです」

15年間、あのクルマを、家族で乗り続けているらしい。
もちろん、15年という歳月は、家族構成も、環境も、
大きく異なっているに違いない。

でも、なのだ。

10年や15年といった『時間』は、過ぎてしまえば、
それこそアッという間の出来事であります。

ま、「ロイヤルパープルスーパーストックカペラKRS」と命名された
長ったらしい車名のこのクルマと、ドライバーとしての小林にとっては、
これから、また新しい『時間』を刻んでいくことになるのだと思う。

自分でクルマを作るということ、
そして、それを走らせるという楽しみは、
なかなか一般の生活を送っている人間には、
分かってもらいにくい『趣味』では、ありますが……。


↑できるだけ、いろんな方に見ていただきたいので、
よろしかったら、お願いします。

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